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「漂流生活的看護記録」は2013年をもって終了いたしました。長年のご愛読ありがとうございました。


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# by valencienne | 2013-12-31 16:38

証明せよ

中学の卒業式の思い出話はいいネタだったのだが、実は中学生活全般を通してみると、あまり楽しい時期でもなかったりするのである。わたしの髪はもともとかなり派手な赤毛で、どこの学校に転校しても必ず一度は呼び出されてそれは染めているのか地毛なのかと尋問された。ある学校でもやはり職員室に呼ばれて尋問されたとき、赤毛がダメなら黒く染めれば問題ないですねと言うと毛染めは校則違反だからダメだという。だったらどうすればいいのかと聞くとそれが地毛で「染めていない」という診断書を医者にもらって提出しろと言われた。そういう証明なら医者よりむしろ理美容師の方が専門ではないか、なによりそんな診断書、何科の医者に診てもらえばいいのかと聞くと「赤ん坊の時からずっと診てもらってる医者ぐらいいるだろう!」と言う。残念ながら転勤族の子にそういう「かかりつけ医」はない、しかも当時から丈夫だけが取り柄でほとんど医者にかかることなどなかった。もし赤ちゃんの時から診てもらってる医者の証明が必要なら、学校休んで大阪まで行って来なくてはいけないのですが、それで構わないんでしょうかね、と聞くと何が彼の逆鱗に触れたのか、自宅に電話され・・・母が学校に呼び出されることになった。

その日学校に現れた母はなぜか着物姿で、ものっすごい笑顔で、わたしはなんとなくイヤな予感がしていた。この女絶対何かする。職員室の隅の応接コーナーでわたしと母、そして生活指導担当の教師の3人で話すことになったのだが、なぜ彼はこういう他の教師たちもそろっている「衆人環視」の状況で話をしようとしたのだろうかと今も不思議である。彼はわたしが素直に医者の診断書をもらってこようとしない、本当は髪を染めているのではないのか、女性でも専門職として仕事をしているのはわかるがまず母親としてちゃんと生活を見ているのかという話を始め、母はやはりものすごい笑顔でその話を聞いていた。そして「でも髪のことならやっぱり医者より美容師さんの方がよくわかってるんじゃないですか?」と言う。親子そろって同じことを言う!どういう教育を!と激高する教師に向かって

「医者と理美容師じゃ信用度が違うっていうんですか?どっちも厚生大臣の出す資格ですよ。医者は大学出なくちゃだめだけど理美容師は中卒でも取れるから?その中卒が社会で負けないでやっていけるだけの知識をつけて送り出すのが中学教師の務めですよね?世間の他の人たちが中卒はダメだと言うならともかく、中学校の先生自身がそんなことを言ってどうするんですか?先生はご自分の仕事の価値まで貶めるんですか?」と、平然として言った、相変わらずごっつい笑顔のままで。ああ始まったなあ、と思った。うちの母はこういう「プロフェッショナルたれ」ということに関しては絶対に譲らない人だった、わたしが物心ついた頃からずっと。

「そういう信用できるできないの話じゃなくて!その髪が地毛なのかどうかってことをですね!」とキレ気味の教師を前に母はわたしの方を向くと「あんた・・・ボウズ頭にしなさい」といきなり言い出した。

「え?!」わたしも生活指導教師も一瞬母が何を言ったのかわからなかった。

「一回丸刈りにしてみて、また伸びてくる髪の色見れば染めてるのか地毛なのかすぐわかるやないの」

教師の方は「でもお母さんそれは・・・」と明らかに困惑している。「丸刈りかて校則で決められてる髪型でしょう?なんも違反してへんし問題ないない」と本当に楽しそうな母。「それは男子生徒の決まりで・・・」といきなりさっきまでの勢いのなくなった教師に「うちは男やから女やからって差つけて育ててませんから大丈夫です」と母が畳み掛ける。この人今日は本気でやるつもりで来たのだな、とわたしは思った。それまで何度も同じようなことを行く先々で言われてきた、わたしはともかく、母も相当ため込んでいるものがあったのだろうと思う。わたしは「ああ、それで済むならわたしはかめへんよ」と言った、母に合わせてごっつい笑顔で。

「先生、この子の髪はもともと赤いんですよ、そりゃもう後頭部に寝ハゲのできるような赤ちゃんの頃から、なんなら写真見ますか?」と母は言い、バッグの中をゴソゴソと探し始めると「あっ!こんなところに・・・バリカンが入ってる!なんでやろ?」とバッグの中から弟の頭を刈るときに使っている電気バリカンを取り出した。あまりのわざとらしさに吹き出しそうになった。

「あっそうや、ボウズにするんやったら先生に刈ってもらお!ちょうどここにバリカンもあることやし、自分で刈って自分の目で見てもらうのが一番の証拠になりますよね!ねえ先生?」

そういって母は彼の目の前の机にバリカンを置いた。

「さあ先生、ど う ぞ」とバリカンを差し出した時だけは笑顔ではなかったのだが。教師もさぞ困っただろうと思う、立派なモンペである。見かねた別の教師が「もう今日はこのへんで・・・」と助け船を出してくれたので帰れることになったが、あのままで引っ込みのつかなくなった彼はどうするつもりだったのだろう、ちなみにわたしは丸刈りにしてくれてもいいと思っていたのだが。

さて結局その「髪は染めていません」診断書の提出はその後ウヤムヤになってしまい、わたしがその中学にいる間、教師たちはわたしの頭髪に関してはまったく触れることはなかった。ただその翌年から、学校の近くの理髪店の店主に服装検査の頭髪チェックに協力してはもらえないかという要請は学校側からあったという。(店主は「そんなアホらしいことに仕事休んでまでつきあえません」と断ったらしいが)教師の方からは何も言われなくなったが、後々うるさかったのは同級生達からである。「校則があるのをわかって中学にきているんだから(そういう負担をするのは)当然なのに」とか「本当に校則を破って毛染めをしていないなら(自分たちに対しても)証拠を見せるべき」などというようなことを、いわゆる「いい子」達からしつこく言われてうんざりした。彼らにとっても教師たちにとっても、わたしの髪が赤いことなど本当はどうでもよかったのではないかと思う。ただ「みんなのルール」に服従しました、という証明書が欲しかっただけなのだろう。そしてあれほど言われた医者の「診断書」も、ルールから外れる「正当な理由」として求められたのではなく、むしろ排除するための「正当な理由」に使われる気がしていた。

いまわたしは看護師をしているが、この冬も外来は「学校(会社)に見せるのでノロ(インフルエンザ)の検査をして診断書を書いてくれ」という患者でいっぱいだった。症状もつらいだろうに、家で寝ているのが一番回復のためにも(他への感染機会を拡大させないためにも)よいだろうに、それでも病院にやってきて検査を受けるのである。本末転倒になってんじゃないのかな、と思う。しかしあの当時わたしにそう言っていた同級生達が、今職場で上司の立場にあったり教師をしていたり人の子の親となっているのである。こういう「診断書」を提出させることにどれだけの意味があるのかなどと疑問を持つはずもない。

その日の帰り道、わたしと母は黙って一緒に歩いて家まで帰った。ほんの5分足らずの道のりだったのだが、その途中母がぽつりと「あんたもな・・・あんまりやりすぎんときや」と言った。おかーさんにそういうこと言われたくありませんとわたしは思った。
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# by valencienne | 2013-03-18 11:11